荻原裕幸/「初霜無心調」より

  • 五円玉の稲穂くすんで揺れることなきまま秋の財布にしづか
  • 北を上と呼ぶひとがゐて秋のはて北にしづかなひろがりがある
  • 誰にも記憶されないやうなふるまひをして初霜の熱田区をゆく
  • 白く見えてゐるのはあれは本当は何なのか冬の午後ゆく人の
  • 馬の背にしばししづまる冬の日のぬるくながれてゆく福島県
  • 青くぼやけた龍の小皿にたれ撥ねて来々軒はいちはやく冬
  • いろいろな手があらはれて卓上の蜜柑がひとつ残されるまで
  • 小嶋陽菜の名と笑顔とがゆるやかに一致してゆくこの十二月
  • 大事なことをおざなりにしてばかりゐる冬の恨みの形に雲は
  • あり得ないほど何も無いおだやかな数へ日に庭を掘る音がする
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